2025年6月22日(日)
“Dr.コトー”いなくなる?
沖縄・与那国町が無医島に 背景に基地増強
![]() (写真)人気テレビドラマ「Dr.コトー診療所」のモデルとなった与那国町診療所=6月、沖縄県与那国町(山田和幸さん提供) |
国境の島・沖縄県の与那国島(与那国町、人口約1650人)で、人気ドラマ「Dr.コトー診療所」のモデルとなった診療所から医師がいなくなる恐れがあります。島で唯一の町立診療所に医師を派遣する公益社団法人地域医療振興協会(東京都)が、撤退の意向を示し、その理由に「『台湾有事』への懸念」をあげています。
「住民の中に賛否両論あるなか、苦渋の選択で自衛隊基地を受け入れた。それなのに自衛隊が来て『台湾有事』を理由に、これまであった診療所がなくなったら本末転倒だ」。そう憤るのは町議会の崎元俊男議長(無所属)です。
日本最西端で台湾からわずか100キロほどの同島。南西諸島で軍事体制を強化する「南西シフト」の先駆けとして、2016年に陸上自衛隊の駐屯地が設置されました。自公政権が米国追従で推し進める大軍拡のもと、島では「台湾有事」を想定した自衛隊の基地増強が進められています。
町立診療所は、同協会が11年から指定管理者になっています。医師を確保するのが難しい離島で、協会が医師を派遣することになった当時、「町民はもろ手を挙げて喜んだ」と崎元さんは振り返ります。1年ほど前、協会からの要請で医師の働き方の改善を理由に、医師を1人から2人体制に。町の予算は3000万円から5000万円に増額したといいます。「1年もたっていないのに…」と納得がいきません。
“安全保障”の名で島の医療壊される
医師撤退の状況つくった政府
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協会は、来年3月で期限を迎える与那国町との契約を更新しない考えを示しています。その理由を地元紙は医師の安全確保に触れ「『台湾有事』が懸念材料の一つ」と報じました。協会側は本紙の取材に対し「おおむね事実」であると認めました。政府は3月に与那国島を含む先島諸島の住民避難計画を公表しました。崎元さんは「協会は『台湾有事』になった場合、島民が避難するなか、医師は島に残らざるを得なくて危険だと考えたのではないか」と話します。
住民の納得は
崎元さんによると、町議会が町から協会撤退の話を受けたのは、5月22日。急きょ町議会の臨時会を開き、県に対し県立へき地診療所への移行を要請する意見書を全会一致で可決しました。一方、防衛省が自衛隊の「医官」派遣を検討する意向を示しています。崎元さんは「住民の中には自衛隊の医者のところには感情的に行きたくない人もいる。地元の住民が納得できる形で普通の医療体制を築く必要がある」と語ります。
今月11日、県に要請に行きました。これに対し玉城デニー県知事は19日の定例記者会見で、既存の支援を含め「どのような支援が可能なのか検討する」と述べました。崎元さんは「県も財政が厳しい。『台湾有事』で医者が来ないという状況をつくったのは国の責任。国は県に予算措置をするなど早急に対応してもらわないと困る」と訴えます。
住民の山田和幸さん(73)は「政府の“安全保障”という名の政策で、与那国は医療保障という最も重要な基盤を壊される」と批判します。
22年に日米共同演習が実施され、狭い集落を自衛隊の大きな機動戦闘車が走る様子に「制圧された感覚になった。いよいよ住民が島から出て行かざるを得ない状況になってくるのではないか」と肌で感じたといいます。
島では、昨年11月に特別養護老人ホームが閉鎖。薬剤師も今年5月末に撤退しました。沖縄本島の薬剤師からオンラインで服薬指導を受け、処方薬を受け取るまでに航空便で2日~最大1週間程度かかるといいます。
山田さんは「重要なライフラインが急速に切り捨てられている」と危機感をにじませます。「『墓があるから出て行かない』と踏ん張っている長老たちも、医者や介護施設がなくなれば出て行かざるを得なくなる」と強調します。
平和外交願う
同島と台湾はさまざまな平和的な交流があります。山田さんは、政府に対し日台関係の近代史を学ぶ教育政策の推進を求めるとともに、平和外交を願います。「日中平和条約を締結しているにもかかわらず、米国に異常に従う外交防衛政策を東アジア諸国と対話を深める政策に転換してほしい」(小林圭子)