2025年6月15日(日)
きょうの潮流
フジテレビの一件以来、「アナウンサーの脆弱(ぜいじゃく)性」が広く知られるようになりました。華麗に見えて裏舞台は過酷。局のアナウンサーですら、そうなのです。フリーで女性となると、脆弱性は局アナの比ではないでしょう▼奪われた尊厳を取り戻したい、とフリーアナウンサーの女性が立ち上がりました。収録現場や放送で、約6年にわたりセクハラが常態化していたのに防止する義務を怠った、とTBS系列の地方局「あいテレビ」(松山市)を提訴したのです▼2016年4月に始まった番組で出演者は著名な男性タレントと僧侶と女性。訴状から見えてくるのは深刻な二次加害です。公開の場でセクハラを受けている女性を全員で笑いものにし、公共の電波で拡散する。「集団いじめ」といえる状況に心身を病んだ女性は番組を降板、放送は22年3月終了しました▼重度のうつ病で今も働けない女性。記者会見で代読されたコメントが悲痛です。「狭く閉鎖された収録場所で男性たちに囲まれ嘲笑され、見せ物のように性的な辱めを受ける恐怖は、今でも忘れることができません」▼解せないのは女性が放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会に救済を申し立てたのに、人権侵害が認められなかったことです。「表現内容に着目して放送局の責任を問うことは表現の自由に対する制約につながりうる」と▼誰かの犠牲の上に成り立つ「表現の自由」があっていいのでしょうか。ハラスメントを不問に付す文化は、もう終わりにしたい。