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2025年6月14日(土)

主張

大川原化工機冤罪

捏造の動機解明し徹底検証を

 平和に貢献できる製品づくりを信条としてきた噴霧乾燥機の専門メーカーが、軍事転用可能な機器を無許可で輸出したとして外為法違反の罪に問われ逮捕・起訴されたことは、どれほど社員たちの誇りを傷つけたでしょう。

 公判直前に起訴が取り消された冤罪(えんざい)・大川原化工機事件で、同社の社長らが国(東京地検)と東京都(警視庁公安部)を訴えた裁判で、国と都は最高裁への上告を断念しました。約1億6600万円の賠償を命じた東京高裁判決(5月28日)が確定しました。

 上告断念は当然です。勾留中に胃がんが見つかり、潔白が証明されたことを見届けることなく亡くなった同社顧問の相嶋静夫さんと遺族の無念を思わざるをえません。

■忖度がなかったか

 一審に続き、二審も警視庁公安部と東京地検の違法捜査を認定しました。容疑を否認したのに、自白したとするウソの調書をつくるなど、同公安部はあらゆる違法捜査で“事件”をつくろうとしました。二審判決は「問題点の指摘を受けながら解釈の合理性を再考することなく逮捕に踏み切った点で、犯罪の嫌疑成立に係る判断に基本的な問題があった」としました。

 周囲の疑問を顧みることなく逮捕・起訴に突っ走った背景について、捜査に関わった公安警察官が「捜査の決定権を持つ人の欲」と証言したことは重大です。後に返上しましたが、同公安部はこの件で警察庁長官賞や警視総監賞を受賞するなど高い評価を受けていました。

 暴走の一因に、当時の安倍晋三政権が推進する経済安全保障への忖度(そんたく)が指摘されており、検証が必要です。

 同社の製品が輸出規制対象になるとした同公安部の解釈に経済産業省は否定的でしたが、その後、容認に転じたことが強制捜査につながりました。二審では、経産省の担当者が当初は「省令を改正しない限り規制できないのでは」と述べていたメモが提出され、公安警察官が「公安部長が経産省に(規制対象と認めるよう)お願いしたと考えている」と証言するなど、事件捏造(ねつぞう)のために解釈をねじ曲げたことが明らかになりました。

 「事件は捏造」とする公安警察官の証言を、公安部側は「壮大な虚構」とののしりました。今や「壮大な虚構」がどちらなのかは明らかです。

■「人質司法」の怖さ

 この事件は、容疑を否認するほど拘束が長くなる「人質司法」の怖さも突きつけます。大川原正明社長らの身柄拘束は332日に及びました。屈せずに自白しませんでしたが、もし心が折れウソの自白をしていたら、捏造した事件が“事実”にされる恐ろしさ。多くの冤罪を生んだ捜査手法への深刻な反省が必要です。がんと診断された相嶋さんの保釈申請を却下した裁判所の責任も問われます。

 警視庁や最高検は問題点を検証するとしますが、警察、検察の内部検証でなく外部の目が必要です。秘密体質の警視庁公安部の不透明なお手盛り検証では許されません。事件をでっちあげ、無実の人を逮捕した重大な権力犯罪を徹底的に検証し、結果を公表し、体質を改めるべきです。


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