2025年6月10日(火)
2025焦点・論点
極限のガザ人道危機どう打開
現代イスラム研究センター理事長 宮田律さん
民族浄化進めイスラエル孤立 侵略敗北へ国際法守る運動を
イスラエルはパレスチナ自治区ガザでのジェノサイド(集団殺害)を拡大し、人道危機は極限状態です。この現状をどう見るか、イスラエルの蛮行を止め、ガザの人びとを救うにはどうしたらいいのか、現代イスラム研究センター理事長の宮田律さんに聞きました。(伊藤紀夫)
![]() (写真)みやた・おさむ 1955年山梨県生まれ。現代イスラム研究センター理事長。著書に『イラン』『中東イスラーム民族史』『ガザ紛争の正体』『イスラエルの自滅』など。 |
―2023年10月7日の侵攻から死者は5万4千人を超え、人口の25%に当たる約50万人が飢餓状態にあります。ガザ当局によると6日までに、米国が主導する食料配給所でイスラエル軍の発砲で死亡したパレスチナ住民は計110人、負傷者は580人以上にのぼります。
イスラエルは、パレスチナ住民を苦しめ抜いて追い出していくことを狙っています。そのために国連も追い出し、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)などが400カ所で行っていた食料配給もできなくなりました。
今回の配給場所はわずか4カ所ですが、実施されたのは南部3カ所中の2カ所です。住民を南部に集めて外に追い出そうとしていると思います。イスラエルは既成事実の積み重ねばかりやってきた国ですからね。
ネタニヤフ政権は今、極右政党の支持がないと持たない状況です。極右政党はガザを含むパレスチナ全体を支配するというイデオロギー「宗教シオニズム」の持ち主です。パレスチナは神から与えられた土地で、ユダヤ人が支配することによって救世主が復活すると本気で考えています。ネタニヤフ首相は、パレスチナの存在を認めず軍事的に領土を拡張していく「修正シオニズム」の信奉者です。
こうした考え方から、国際法を全く無視した無差別攻撃で病院や学校、難民キャンプを破壊して多数の犠牲者を出し、UNRWAなどが担ってきた食料・医療・教育などの人道援助を強制的に排除してきました。その結果、人道上の大惨事になっているのです。
ネタニヤフ首相は戦争を継続する理由についてトランプ米大統領の計画を実行していると語っています。これはガザからパレスチナ人を追い出してリゾート地にする不動産計画です。集団殺害と強制移住で特定の民族を絶滅させる民族浄化が進行中だと思います。
―宮田さんは今年、『イスラエルの自滅―剣によって立つ者、必ず剣によって倒される』という本を出しましたが、イスラエルの現状をどう見ていますか。
ガザ戦争は2年近く続き、イスラエル国家の矛盾が噴き出してきています。イスラエルのオルメルト元首相は「イスラエルは内戦に近づいている」「戦争犯罪を犯している」と言い、国家も分裂しかねない状態です。予備役の招集拒否も増え、一つの部隊は平均60%を確保すればいいような状況です。招集拒否は懲役刑ですが、実際には実行されていません。要は“みんなで逃げれば怖くない”ということでしょう。
昨年の企業倒産は中小企業を含めて6万社で、とくに建設業はヨルダン川西岸やガザからパレスチナ人労働者を調達できなくなり、ダメージが大きい。農業は南部と北部に集中していますが、ロケット弾が飛んでくるので約10万人が避難させられ、帰還できません。そうなると、彼らの生活保障も必要で財政的な負担が相当増えています。
―イスラエルの蛮行に国際的批判が急速に広がっています。英国、フランス、カナダが5月19日、軍事作戦の停止と人道支援物資の即時搬入を求める共同声明を出し、英国が20日、自由貿易協定の交渉を停止するなどの動きが相次いでいます。ドイツのメルツ首相は26日、ガザへのイスラエルの攻撃について「もはや正当化することはできない」と異例の批判をしました。
![]() (写真)イスラエルによるガザ攻撃の即時中止を求めて宣伝する人たち=5月25日、京都市内 |
イスラエルは国際社会から孤立し、支えているのは米国だけという状態です。ドイツはホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺)の負い目からイスラエル批判を許さない国ですが、ガザの人道危機のひどさに批判せざるをえなくなったのでしょう。
「マドリード+2国家解決策実施会議」が25日、開かれ、スペイン外相は国際社会がガザでの非人道的な戦争を止めるためにイスラエルに対する制裁を検討すべきだと述べました。パレスチナ国家を承認しているスペイン、ノルウェー、アイスランド、アイルランド、スロベニア、ブラジルのほか、フランス、英国、ドイツ、イタリアなどの欧州諸国、アラブ諸国も参加し、イスラエルへの武器の禁輸やパレスチナ国家の承認を促しました。「沈黙することは、この大虐殺に加担することになる」と欧州諸国はこれまでできなかったイスラエル批判を行うようになってきたのです。
―この問題でも日本政府は米国に追随して信頼を失っていますね。
はっきり言って日本は相手にされていないと思います。昨年4月、岸田文雄前首相は国民をないがしろにして、バイデン前米大統領に敵基地攻撃能力の保有や軍事費の倍増を約束しましたが、こんな米国への追従姿勢に世界は信用していないのではないでしょうか。パレスチナ問題で日本は世界から信頼を得る独自の取り組みをしてこなかったから、マドリードの会議にも呼ばれないわけです。
岸田前政権には大変がっかりしましたが、石破茂政権も米国と同一歩調でいいのかが問われています。日本はパレスチナとイスラエルによる2国家解決を言いながら、パレスチナの独立国家を承認していないのは矛盾した話です。この間会ったノルウェーの駐日大使は「米国やイスラエルの批判をかわすには各国が一緒にぱっとやった方がいい」と言っていました。日本も参考にすべきです。
―極限的な人道危機を終わらせるために今、何が必要でしょうか。
アラブ人の住むパレスチナに強引に建国したイスラエルは1948年以来、中東戦争を繰り返してパレスチナを占領し、今日の事態を招いています。武力で他国の主権を侵害する侵略が最終的に敗北することは、歴史の教訓です。日本は満州事変で中国東北部を侵略して国際的に孤立し、33年に国際連盟を脱退しましたが、イスラエルも今、国連を敵視し、国際的孤立を深めています。
イスラエルに国際法を順守させ、停戦と大規模な人道支援を実現し、パレスチナ人が独立国家で平和に生きていくため、国際世論と運動をさらに強め、広げていかなければならない時だと思います。