2025年6月5日(木)
きょうの潮流
「土(泥)のスプーン」。親からゆずりうける財産もなく、努力しても貧困から抜け出せない。韓国社会の格差をスプーンの種類に例えたはやり言葉で、その最下層を意味します▼彼の出身階層はそこにも届かない「スプーン無し」だったと自伝に記しています。中学校にも通えず、少年工として朝から晩まで働きづめ。劣悪な工場を転々とし、生傷は絶えず、理不尽な暴力に耐える日々。プレス機に挟まれた左腕は今も曲がったまま…▼第21代の韓国大統領に選ばれた李在明(イ・ジェミョン)氏です。「貧しさゆえに苦しみ悲しい思いをしている、誠実で素朴な人たちのために生きていこう」と苦学の末に弁護士となり、市民運動にも参加。地元に市民病院をつくる活動がきっかけで政治の道に進みました▼国会に軍隊を突入させた尹錫悦(ユン・ソンニョル)・前大統領の非常戒厳令から半年。大統領の弾劾、罷免と国の混乱が続くなか、韓国国民は戒厳を厳しく批判してきた最大野党の候補を新大統領に選出しました。自由と民主主義を守ろうと▼李氏は就任式で「分裂の政治を終わらせる大統領になる」と宣言。深まる政治や社会の分断の克服に向け「憎しみや嫌悪ではなく、認め合い、協力しながら、ともに生きていくような世の中をつくる」と決意を示しました▼超少子高齢化や貧困、将来像を描けず政治不信を募らせる若者。北朝鮮との平和構築など多難の船出です。新大統領の原点である「みんなが一緒に生きられる社会」。多くの思いが託された国のゆくえが試されます。