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2025年5月7日(水)

NHKの契約切られたフリーカメラマン

報酬は相場の6割程度

背景に複雑な重層下請け構造

 NHK番組制作に携わるドキュメンタリー撮影のフリーカメラマンが契約を打ち切られる事件が起きました。昨年11月施行の「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(フリーランス新法)で解決が進まず、当事者は労働者としての権利保障を求め、映演労連フリーユニオン役員として労働委員会にあっせんを申し込んでいます。(田代正則)


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 ドキュメンタリーを中心にフリーランスのカメラマンとして活動する満若勇咲(みつわか・ゆうさく)さん(39)が、映演労連の個人加盟労組フリーユニオンに加入したのは2019年。NHK番組の低報酬をなんとかしたいとの思いからでした。

 NHK以外の一般的な民放などで、カメラマンの報酬は1日拘束で3万円台後半から4万円程度が相場。しかし、NHKの孫請け会社ネオテックは2万5500円に抑えられています。

 ドキュメンタリー撮影は、海外ロケなど一定期間拘束されるものもあれば、長期にわたって断続的に撮影が続くものもあり、複数の撮影を並行してスケジュールを組みます。

 満若さんの年収は600万円程度ですが、雨具や登山用品など重装備を自分でそろえることや、取材相手の都合によるキャンセル、けがのリスクなどを考えれば、「1日4万円は最低限必要です」。民放番組の制作会社から「うちでもNHKの料金で仕事をしてくれ」と値切られそうになった経験もあります。

 低報酬の背景に、複雑な重層下請け構造があります。ディレクターから、番組のジャンルが得意で制作方針と相性のいいカメラマンにスケジュールの都合など打診があります。しかし、契約はNHKと直接結べません。NHKテクノロジーズを経由してネオテックなどの孫請け会社と業務委託を結び、そこから派遣される形になっています。

 満若さんたちの得た情報で、NHKの番組予算上は1日4万5000円と推計されますが、下請けを通過し、満若さんに届くころには2万5500円まで下がっています。

新法では解決できない
労働者として保護必要

写真

(写真)1歳の子どもを抱く満若勇咲さん

 2023年4月、映演労連フリーユニオンはネオテックと団体交渉をはじめました。会社側はNHKテクノロジーズの下請けなので報酬を上げられないなどの言い訳に終始しました。24年12月、ネオテックは満若勇咲さんとの業務委託(登録)を25年3月末をもって打ち切ると通知。理由は「会社リソースの節減」という理解できないものでした。満若さんは「ネオテックは仕事をあっせんすることはない。登録を打ち切ってもリソースの削減になるとは思えません」と言います。

 フリーランス新法による解決も試みました。フリーランスが不当な扱いを受けた場合、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省に申し出ると、調査・是正指導するとなっています。

 しかし、行政の見解は、契約打ち切り自体は「違法とはいえない」というものでした。映演労連の梯俊明書記長は、同法の弱点について、「契約打ち切りの理由説明を求めることができるだけで、打ち切りそのものをやめさせる規定がない」と指摘します。

 また同法には、報酬の買いたたきを禁止する規定がありますが、NHKの低報酬への行政対応は、満若さんの契約期限の3月末までに音沙汰はありませんでした。

 フリーユニオンと満若さんは、改めて労働者・労働組合の手段を使い、東京都労働委員会に「あっせん」を申し立てました。会社側も受けるとしています。

 NHKは「NHKテクノロジーズが取引をしている協力会社のことであるため、コメントする立場にありません」と本紙に答えています。

 満若さんは話します。「民放では制作に時間のかかるドキュメンタリーが少なくなり、仕事の8割をNHKに頼っているカメラマンもいる。NHK番組の低報酬を改善して、カメラマンの地位を向上させたい」

 厚生労働省でも労働者保護の範囲見直しが課題に浮上。2日に立ち上げた「労働基準法における『労働者』に関する研究会」は、40年前の「労働者」判断基準が「働き方の変化・多様化に必ずしも対応できない」として調査・検討を行うとしています。


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