2025年4月27日(日)
きょうの潮流
ひさびさに覚えた感動でした。大企業の中の共産党員を描いた長編小説、最上裕(ゆう)著「峠を越えて」です。『民主文学』で1年余りの連載が完結した、作者の自伝的小説です▼主人公の吉竹修治は、瀬戸内の漁村で育った内気な少年でした。高等専門学校で日本民主青年同盟に入り、1975年に東京の電機大手に就職。しかし入社早々、民青の活動を会社に知られ職制から「君の将来のためにならない」と脅されます。民青や共産党とは付き合うなと▼修治はひるむどころか、実名で内部告発の手紙を国会議員に出します。民青の仲間は止めたにもかかわらず。「安穏な人生を拒否し、世の中を変えるために革命家として生きる」という使命に燃えていたからです▼しかし長い人生の中では、一途(いちず)さだけではもたないことも。修治は職場の差別に耐えながら、自分の理想を見つめ直していきます▼読みながら哲学者の鶴見俊輔の言葉を思い出しました。「自分の中にあるより高い理想像をかかげて、目前の社会にはたらきかけてゆくことが、革命的な行為だと思う」(「根もとからの民主主義」)。いっけん、戦闘的な行為だけが革命的な行為ではないという指摘です▼作者の最上氏はNECに長く勤め、現在は執筆活動にとりくんでいます。本紙で連載した『広き流れに』(新日本出版社)も昨年刊行されました。不当な「発達障害」扱いで解雇され、撤回を求める最近の実話に基づく小説です。「自分の中の理想」に根ざすたたかいは、今も続きます。