「男系男子は神武天皇以来、2600年以上続く伝統」―皇室典範改定をめぐる国会論議で、戦前を彷彿(ほうふつ)とさせる非科学的な言明が繰り返されました。歴史学ではまったく通用しない言説が史実であるかのように戦後80年をすぎた国会で語られました。
それを「根拠」に、養子の男系男子が皇位を継承するという皇室典範改定が強行される、異様で危険な事態です。
■アマテラスから?
自民党の小林鷹之政調会長は「皇位の男系継承は、2600年以上にわたって先人たちが守り抜いてきた皇統、皇室の伝統」と強調しました。
この考えは自民党のなかでは特異なものでなく、山谷えり子参院議員は「旧11宮家の方々を養子の対象とする条文案は、2600年以上にわたる我が国の皇位継承の歴史と伝統を守り抜くという思いを形にされたと考える」としました。高市早苗首相自身が4月の自民党大会で「126代にわたって、『男系』で皇統が継承されてきたという世界でも比類がない歴史的事実こそが、天皇の権威と正統性の源」と断じていました。
自民党だけでなく、維新共同代表の藤田文武衆院議員は「本年は皇紀2686年…御皇室は、古来、男系で紡いできたという希有(けう)な伝統を有し、万世一系とはそのような伝統を指している」、参政党の松田学参院議員は「アマテラスオオミカミにつながる初代神武天皇以来、日本の皇室は例外なく父親の血筋、すなわち男系」と語っています。
ここまで来れば、科学をないがしろにし、史実を無視した「主観的妄想」(内田樹神戸女学院理事長)というしかありません。問題は、「妄想」が国会を闊歩(かっぽ)し、彼らが主導し、皇室典範改定を強行成立させたことです。事態は深刻といえます。
歴史学者も批判の声をあげています。「そもそも実証的な歴史学では、神武天皇の存在は確認されていない。…現代に続く血縁継承の流れができたのは、6世紀に即位した欽明天皇以降だ」(仁藤敦史国立歴史民俗博物館名誉教授、「毎日」3日付)
■見過ごせない危険
神武天皇が神話の世界の存在であることは、常識に属するもので、学校の歴史教科書も、2600年前を縄文時代から弥生時代に移行する時期としています。子どもに聞かせられない言説が国会でまかり通っているのです。
各紙が批判するのも当然です。「約2600年前に即位したとされる初代・神武天皇は神話上の存在だ。神話や特定の価値観を根拠に皇室制度を改正することは、国民主権や基本的人権を定める日本国憲法の精神と相いれない」(「毎日」18日付社説)
日本の歴史が万世一系の天皇を中心として展開されてきたとする歴史観―皇国史観―は戦前、国民を侵略戦争に動員した非科学的で危険なものです。国会でのこうした言動を許容する自民党の劣化ぶりにも驚かされます。
いま、「戦争する国」づくりがすすむ危険に直面しているだけに、戦前の遺物が息を吹き返したかのような非科学的な言動をけっして見過ごしてはなりません。

