厚生労働省は1日の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)介護保険部会に、介護保険利用料の2割負担の対象を拡大する所得基準案などを提示しました。そこでは所得基準を下方に大幅に下げるほか、預貯金額を負担割合決定の要件にすることを初めて打ち出しました。医療や介護の定率負担の決定要件に、預貯金額を持ち込むのは初めてです。「高市政権は大軍拡だけでなく社会保障切り捨てでも大暴走だ」。関係者が怒りの声を上げています。(内藤真己子)
厚労省は、利用料2割負担の対象となる所得基準(年金収入と、その他の所得の合計額)を、現行の単身世帯で280万円(夫婦で346万円)から引き下げ、「230万円(夫婦296万円)」「240万円(同306万円)」「250万円(同316万円)」、「260万円(同326万円)」とする4案を提示しました。所得基準を最大「所得上位30%」(230万円)まで広げる範囲の選択肢を示したとしています。
これにより新たに負担増となる人数は、それぞれ約35万人、約28万人、約21万人、約13万人としています。
また「配慮措置」と称し、(1)「当分の間」、負担増の上限を月7000円に設定する(2)預貯金などが一定額未満の人には申請により1割負担に戻す―を示しました。預貯金の申請により、所得基準引き下げで2割負担になる人の3~5割が1割に戻るなどとしています。物価高騰の中での負担増に対して、審議会の委員からは慎重・反対意見が続出しました。
「異次元の暴挙」
「厚労省提案は、これまでにない異次元の暴挙」というのは大阪社保協介護対策委員長の日下部雅喜さんです。問題視しているのは預貯金残高を負担割合の判定要件に持ち込むことです。「所得が少ない人への『配慮措置』と説明されていますが、本質は、預貯金を負担割合決定の要件として恒久的に制度に組み込むことです」と日下部さん。「たとえ年金などの収入を、生活費や医療・介護の負担による支出が上回ったとしても、預貯金があるなら負担増は可能という『究極の裏技』だ」と厳しく告発します。
年金が230万円(月19万円程度)の人が、すでに2割負担(年収200万円以上)になっている後期高齢者医療の窓口負担を払ったうえ、要介護状態になれば毎月発生する介護保険の利用料まで2割負担を強いられれば、収支が破綻することは目に見えています。その場合は、預貯金を取り崩してでも2割負担を払わせるというのが、今回の厚労省案の前提です。
財務省の財政制度等審議会も、来年度予算編成に関する「建議」(2日)で「所得上位30%の高齢者世帯では平均で1000万円以上の貯蓄がある」とし、2割負担拡大を「金融資産の保有状況も考慮に入れて検討すべき」と求めました。
「預貯金を取り崩しても利用料を払うことが前提になれば、住民税非課税に近いような低所得の人にまで2割負担を持ち込み、申告で預貯金が少ない人だけ1割負担に戻す対応が可能になります。財務省が主張している『原則2割負担化』が現実味を帯びてくる」。日下部さんは警鐘を鳴らします。
「預貯金の申告」は、介護保険で特養ホームなど介護施設の食費・居住費の住民税非課税世帯への負担軽減措置に使われています。2015年の制度改悪で資産要件が追加され持ち込まれました(当時は預貯金額1000万円以下。現在は再改悪で所得段階により500万円以下等)。軽減措置を受けるためには(1)預貯金通帳等のコピーを添付した「申告書」(2)金融機関等調査の「同意書」が必要です。虚偽申告の場合は「3倍返し」のペナルティーがあります。
この預貯金把握の仕組みを負担割合の決定にもちこもうというのです。審議会では、高齢者の預貯金を金融機関に照会するなどの自治体の事務負担増加を懸念する声が相次ぎました。厚労省は今後「預貯金等の確認でのマイナンバーの活用」を「検討事項とすることが必要」としています。
上限は当分の間
(写真)介護改悪を許さず、制度の抜本改善と職員の大幅処遇改善を求める請願署名を国会議員に提出する人たち=11月20日、衆院第2議員会館
7000円の負担上限は「当分の間」とされます。介護保険部会の委員を務める、認知症の人と家族の会の和田誠代表理事は「75歳以上の高齢者医療2割負担の緩和措置が今年9月末にわずか3年で終了したのと同様、近い将来2割負担を強いられることは避けられない」とし審議会で負担増に反対を表明しています。
「配慮措置」が終了し2割負担となると、負担増は最大で月2万2200円、年26万6400円となります。仮に最も上位の260万円でも、その約1割に相当する重い負担が家計にのしかかります。和田さんは「政府は2割負担の対象を年収230万円まで拡大したいと考えているのが透けてみえます。そのために『配慮措置』を出してきていますが『配慮』になっていません。物価高騰もあり、いまの1割負担でも利用を控える人が後を絶ちません。2割負担が拡大すれば、利用をやめたり施設を退所する人も出かねません」と訴えます。
全日本年金者組合の廣岡元穂副委員長は怒リを込めます。「女性の年金受給者の84%が月10万円以下です。年金だけでは暮らせないから老後の蓄えを貯蓄しているのです。それを取り崩して暮らしているのが年金生活者の実態です。それも厳しくなり、930万人もの高齢者が働かざるを得ない状況です。その蓄えにまで手をつけ奪い取るっていうことは、命を奪う人権侵害です」
すさまじい物価高騰。年金改定率は「マクロ経済スライド」で物価上昇率以下に抑えられ実質は低下しています。それでも額面は上がり、わずかな増額で住民税非課税が課税になって税金や保険料が夫婦で10万円の負担増になったケースもあります(本紙10月18日付)。さらに年金増額で介護保険は単身で年収280万円(夫婦で346万円)後期高齢者は同200万円(夫婦で320万円)の2割負担ラインをわずかに超えて、すでに2割負担になっている人もいます。
1日の介護保険部会では、「住宅型」有料老人ホーム入所者のケアプラン有料化も示されました。
このもとで認知症の人と家族の会は、(1)利用料2割負担の対象拡大を行わない(2)ケアマネジメント利用者負担を導入しない(3)要介護1、2の生活援助サービス等を地域支援事業へ移行しない―を求めるオンライン署名に取り組んでいます。5日には、上野千鶴子さんら幅広い市民や介護関係者が集う「ケア社会をつくる会」が、介護改悪に反対する院内集会を開きます。
和田さんは「介護保険部会の審議はいま最大のヤマ場です。経済界や保険者の委員は『2割負担の対象拡大で40歳以上の介護保険料が抑制できる』といいますが、負担増で利用料が払えず介護サービスが利用できなくなれば、現役世代の介護離職に直結します。経済的損失は計り知れない。全国民の課題として負担増・給付削減やめての声を広げたい」と語ります。
認知症の人と家族の会のオンライン署名は、ここからアクセスできます。
https://www.change.org/anshin2025

