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2025年12月3日

主張

米ベネズエラ緊張
無法で時代錯誤の「砲艦外交」

 米国と南米のベネズエラの軍事的緊張が急速に高まっています。直接の原因は、トランプ米政権が、無法で前代未聞の「麻薬密輸船」空爆を行い、海・空軍力を大規模動員して、ベネズエラのマドゥロ政権に圧力をかける政策を実行していることです。

 米軍は9月以来、米国内への麻薬流入阻止を名目に、ベネズエラ沖を皮切りにカリブ海・東太平洋の公海上で「密輸船」とみなした船をいきなり空爆し、乗員ごと殺害する作戦を続けています。現在までに計21回、死者は少なくとも83人に上っています。

 米国で合成麻薬フェンタニルなどの薬物の過剰摂取による死者が増え、大きな社会問題となっているのは事実です。ただ、積み荷が麻薬だったのか、乗員が本当に犯罪者だったのか、米側はなんら証拠を示していません。

■「裁判なしの殺害」

 こうした一方的な殺害は国際人権法に違反しています。強く非難します。

 国連のターク人権高等弁務官は、一連の空爆が、仮に犯罪者であっても受けられる法手続きを飛ばした「裁判なしの殺害」にあたり、なんら正当化の根拠がなく「容認できない」と非難しています。人権蹂躙(じゅうりん)の空爆作戦はただちに中止すべきです。

 作戦には麻薬対策にとどまらない狙いもあります。

 米軍は今、「南方の槍(やり)作戦」と称し、カリブ海域に今世紀で最大規模の戦力を集結させています。強襲揚陸艦などに加え、11月半ばには最新鋭原子力空母ジェラルド・フォードが同海域に到着しました。一帯に集結する兵力は約1万5千人に上ります。

 米メディアが衛星データを分析したところ、これらの艦艇は麻薬密輸ルートからは外れ、一貫してベネズエラ沖に配置されています。麻薬対策としては常軌を逸した戦力配備が、マドゥロ大統領に対するトランプ政権の威圧手段の一環をなすのは明らかです。

 トランプ大統領自身が、ベネズエラを陸上攻撃する可能性を公言しているのは重大です。同氏はマドゥロ氏と先月下旬に電話会談したことを認めています。しかし、その後も圧力をいっそう強める言動を続けています。

■武力威嚇許されず

 マドゥロ氏は水面下の交渉で、埋蔵量世界一とされる同国の原油利権を開放するなど大幅な譲歩策を提示していたものの、米側は同氏にただちに権力を放棄するよう求めているとの報道もあります。

 露骨な軍事圧力で、意に沿わない政権の転換をもくろんでいるなら、はなはだしい主権侵害・内政干渉です。ましてや、国際法に反する武力行使とその威嚇は、どのような名目であれ、どのような事情であれ、許されません。

 米政権の行動は、中南米を自らの「裏庭」とみなし、介入や軍事的威圧の「砲艦外交」を繰り返した19世紀以来の米外交の再来だと、地域・国際社会で警戒が高まっています。国連憲章・国際法に基づく国際秩序に真っ向から反する、現代では通用しない時代錯誤のやり方です。

 「法の支配」の擁護を掲げる日本政府も、対岸の火事と座視すべきではありません。