その言葉を最初に聞いたとき、ある歌が頭に浮かびました。70年代にヒットした海援隊の「母に捧(ささ)げるバラード」です▼武田鉄矢さんの語りが曲の大半を占めますが、そのなかで「今も聞こえるあのおふくろの声」として紹介されるフレーズがあります。「鉄矢、働いて働いて働きぬいて、遊びたいとか休みたいとか思うてみろ、そん時は、死ね」▼時代の側面を映したような歌でしたが、それが今によみがえりました。今年の流行語大賞に高市首相が自民党総裁となった直後に述べた「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」が選ばれました▼受賞理由には「共感した昭和世代も実は多かったのではないか。『仕事ってそういうものだったな』と」。まさに社会進歩を後戻りさせようとするバックラッシュ。それを首相みずからが公言するとは▼働きすぎの奨励や、長時間労働を美徳とする意図はないと言いながら、首相は就任後すぐに労働時間の規制緩和を検討するよう指示しました。現状でさえ過労死などの労災認定件数は激増し、過去最多を記録しているのに。そのうえ雇用を守る責任も果たさず、最低賃金1500円達成の政府目標も撤回しています▼「高市流『シン・ワークライフバランス』で、強靱(きょうじん)で幸福な日本をつくっていこうではありませんか」。受賞理由にはそうも。シンとは、新しい解釈や考え方といった転換を示す言葉として使われています。こんな時代がかった働き方がもてはやされたら国民は不幸になるだけです。
2025年12月3日

