山梨県の中央自動車道・笹子トンネルで天井板が崩落し、9人が死亡した事故(2012年)から2日で13年となります。同トンネルを管理する中日本高速道路(ネクスコ中日本)が今年、事故直後に行った社員や関連会社への聞き取り記録を遺族に開示したことが1日、分かりました。(矢野昌弘)
(写真)中日本高速道路の本社があるビル=名古屋市中区
(写真)人員体制の弱さから、トラブルなどの原因究明に十分な手をかけられないなどの意見が寄せられた「意見集約」
ネクスコは、これまで「山梨県警の捜査の支障になる」などとして、関係者への意見照会をしていないと説明してきました。そのため天井板を撤去する計画を延期したことや、点検を簡略化するといった判断がなぜ行われたのか、説明してきませんでした。遺族が長年、求めてきた真相解明、再発防止への一歩になる可能性があります。
「聞き取り記録」はジャーナリストの樫田(かしだ)秀樹さんが遺族から提供を受けたものです。記録は、ネクスコ本社をはじめ支社、事務所、中央道のメンテナンスを担当する関連会社から集めた意見を分類、要約したものとなっています。
作成日は、事故発生から約1カ月後の13年1月9日。すでに事故直後に聞き取りが行われていたことがわかります。
記録には、「点検頻度が以前より少なくなっている」「コスト削減が優先されてきた結果、安全に費やすことのできる予算が減少」など、補修の軽視が事故につながったと分析する意見が多く目立ちます。
ネクスコは13年1月末に「安全性向上に向けた取組み」という文書を出しましたが、原因に言及したのはわずかで、しかも抽象的な言葉に終始していました。遺族が同文書の基となった社内調査について開示を求めたところ、聞き取りをしていないと説明していました。
遺族の1人は「ネクスコは事故直後に安全対策を発表しているので、そのためには原因や問題点を調べないはずがない、と言ってきて、記録が出てきた。捜査が終了し、開示することに支障がないのだから、さらに具体的な情報を出してほしい」と語ります。
保全業務等を軽視/コスト削減優先/危機管理に天井板なし
ネクスコが開示した文書から
【ネクスコ】
・民営化後、トップダウン(本社⇒支社⇒事務所OR支社⇒事務所)による指示および命令となっており、事務所意見は尊重されない風潮。
・点検頻度が以前より少なくなっている。
・構造物の寿命を過信
・海外、国内他組織(JR国県等)で同一事象が起きてもわが社は大丈夫という根拠なき自信過剰に陥っていた。
・関連事業等に重点を注いでおり組織的に保全業務等を軽視している。
・民営化の分割によって保全技術に関する技術の低下
・新東名の建設をあまりにも重視し、関連部門も含めて金を使いすぎた結果。
・コスト削減が優先されてきた結果、安全に費やすことのできる予算が減少。
【関連会社】
・大がかりで複雑な補修や多額の費用を伴うものは先送りになることが多い。
・点検時に「E判定」(第三者被害の恐れあり)が放置されている実態が一部にある。
・現場にいるときに、リスクマネジメントに天井板が入っていなかった。
・期待寿命や過去の目安を過ぎた場合でも、即座に更新を行えていない。

