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2025年11月29日

富裕税を考える(6)

歴史的転換の始まり
政治経済研究所主任研究員 合田寛さん

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(写真)ニューヨーク市長選では大企業・富裕層課税を掲げるマムダニ氏が当選。写真は投票日前最後の訴えを行うマムダニ氏=3日、ニューヨーク(柴田菜央撮影)

 トランプ政権は他国に対する一方的な高関税による脅しや、法人税の国際的な最低税率の合意からの離脱などによって、これまで築かれてきた国際協力の成果を壊しています。しかし同時にそれを巻き返す大きな歴史的転換が始まっています。

 一つは20カ国(G20)サミット(首脳会議)の動きです。G20は少数の先進国の集まりである7カ国(G7)では対応不可能となった問題に対処するために、二十数年前に開始されました。G20諸国の国内総生産(GDP)の合計は世界の8割以上に達し、グローバルな課題について幅広く議論する舞台となっています。そのG20の「リオデジャネイロ宣言」が、富裕層に焦点を当てた税制の累進化や多国籍企業に対する課税強化を提唱したことは、画期的であり歴史的転換と言えるものです。

 もう一つは、国連の動きです。国連は世界のすべての国が加盟し、地球的規模の課題に取り組むことができる唯一の組織です。その国連において、国際的な税のルールに関する協議の舞台が、これまでの先進国グループである経済協力開発機構(OECD)から、国連を舞台にした「国連枠組み条約」の採択に向けた協議が開始されたことは、もう一つの歴史的転換の始まりです。

課題ますます

 現行のグローバル・ガバナンス(国際的な意思決定)は英米など先進国主導で進められており、多国籍企業・富裕層はそのもとで多大な利益を得てきました。

 行き過ぎたグローバル化と新自由主義的政策の結果、富の集中や極端な不平等、気候変動の危機など、地球的規模で解決しなければならない課題がますます増えています。現行のグローバル・ガバナンスは、これらの課題の解決に十分な役割を果たしていません。二つの歴史的転換はそれを打開する動きとして生まれているのです。

 他方、今までグローバル・ガバナンスの外に置かれてきた、途上国・新興国を中心としたグローバル・サウスが台頭し、その声が高まってきました。2050年にかけて、その人口は世界人口の約7割に、その国内総生産(GDP)の合計は米国や中国を上回り、世界の約3割を占める規模にまで急成長することが予想されています。二つの歴史的転換の背景には、グローバル・サウスの台頭があります。

逆流はしない

 トランプ政権の登場によって、世界の秩序は混沌(こんとん)状態にありますが、それは古いガバナンスから新しいガバナンスへの過渡期の現象にすぎません。歴史の転換はすでに始まっています。新しいガバナンスは各国の主権の尊重と国際協力の上に成り立ちます。

 とりわけ国連総会の全会一致の議決で始まった、租税協力に関する「国連枠組み条約」採択に向けた協議は希望の灯台です。日本は米国など一部の国とともにこの協議に参加していません。

 米国最大の都市ニューヨークに大企業・富裕層課税を掲げる民主的社会主義者のゾーラン・マムダニ市長が誕生したように、公正な課税を求める世界の流れはますます強く大きくなっています。

 二つの歴史的転換が始まったとはいえ、その前途は平たんではなく、逆流や曲折も予想されます。しかし底流を流れる本流は逆流することはありません。その流れを確実にできるかどうかは世界の市民社会の肩にかかっています。

 (おわり)

 (この連載は19、20、22、26、27各日付の6面に掲載されました)