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2025年7月31日(木)

2025とくほう・特報

「カジノ建設残土抑制」 万博経費流用で府・市新文書

本紙報道を裏付け

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(写真)掘削の目的を「IR区域の土砂を鋤取り、万博区域に流用することでIRの建設残土を200万㎥(単位の立方メートル)から120万㎥(単位の立方メートル)に抑制」と記した2021年2月の大阪府・市作成文書(山田明さん提供)

 本紙が10日付で報じた「万博経費でカジノ用地掘削」のスクープをめぐって、掘削の目的を“カジノリゾート(IR)建設の残土抑制”と明記した大阪府・市作成文書の存在が新たに明らかになりました。本紙報道を裏付ける証拠として、カジノ誘致や万博開催を検証してきた山田明・名古屋市立大学名誉教授(地方財政・地域政策論)が提供しました。カジノ業者への便宜供与を否定している維新府政・市政の弁明を覆すものです。(本田祐典)

 本紙は10日付で(1)カジノ用地(大阪市此花区夢洲〈ゆめしま〉の市有地)を府・市が万博経費で掘削(2)カジノリゾート本体工事の残土処分費など20億円超を軽減(3)掘削土を万博の土地造成に使うことでカジノ業者に費用を請求しなかった―と報じました。

 報道当日の会見で横山英幸市長(大阪維新の会代表代行)は「事業者の利便性を図るために何か考えようと思うことはまずない」「万博用地の盛り土工事の費用を削減するため」と弁明し、カジノ業者への便宜供与を否定しました。

 横山市長らの弁明を覆す証拠として山田さんが本紙に提供したのは、府・市が作成した文書「夢洲残土処分計画について」です。2021年2月、府・市が万博協会との打ち合わせ資料として作成しました。

 カジノ用地掘削について同文書は「IR区域の土砂を鋤(すき)取り(=掘削し)、万博区域に流用することでIRの建設残土を200万立方メートルから120万立方メートルに抑制」と目的を説明。本紙が報じた“カジノリゾート建設の残土約80万立方メートル削減”と完全に一致します。

 文書の作成時期は掘削開始(同年3月)の直前です。横山市長が今になって否定しても、掘削の目的に「残土抑制」があった事実は消せません。

 山田さんは万博やカジノに関する行政文書を情報公開請求などで収集。本紙に提供した文書は22年に入手しました。しかし、掘削の費用をどこから支出したかなど疑惑の核心は公開されてきませんでした。

 「カジノのために利用されている万博を『夢洲カジノ万博』だと、これまでも批判してきた。今回の報道によって全体の構図や歴史的な経緯だけでなく、一つの工事のなかでもカジノと万博が一体だと明らかになった。当然、ほかにも同様の手法でカジノ業者を優遇しているのではないかと疑いが生じる」(山田さん)

議会にも市民にも秘密

カジノ固執 業者逃げぬよう優遇次々

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(写真)万博・大屋根リング(中央奥)の北側で進むカジノリゾート建設=7月下旬、大阪市此花区夢洲

 万博経費を使ったカジノ用地の掘削は、大阪府・市からカジノ業者への巨額便宜供与となっています。掘削によってカジノリゾート建設(今年4月着工)で発生する残土の処分費や運搬費などが軽減され、その総額は20億円超です。

 この便宜供与のため掘削や土砂運搬などにかかった費用は約10億円。維新府政・市政は“万博用地造成のためにカジノ用地から土をもらった”ことにしてカジノ業者に負担を求めていません。

目的は残土抑制

 掘削の目的がカジノリゾート建設で発生する残土の抑制だったことは、掘削当時に府・市が作成していた新文書(1面参照)で動かしがたい事実となりました。

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 さらに本紙は、市が工事の目的を万博の土地造成ではなく「夢洲(ゆめしま)3区(=カジノ用地)の土砂の撤去を目的とした鋤(すき)取り工事」と記載した別の文書を入手しました。工事名も万博と関係ない「夢洲3区鋤取り工事」としていました。

 文書は掘削直前の2021年2月、夢洲の土壌汚染を管理する市環境局に対して市自身が工事内容を届け出たものです。

 しかし、市はこの新工事の入札や公表を行わず、すでに工事が始まっていた万博用地造成(夢洲2区土地造成工事)のなかに追加しました。既存の万博工事に契約変更でカジノ用地掘削を追加することで、議会に無断で万博経費を使い、工事の存在自体も隠したのです。

 万博の有無に関係なくカジノ用地の土砂撤去が必要だったなら、万博経費を使う理由はありません。土砂の処分だけ万博用地で引き受ければ万博経費の増大を防げたはずです。

施設計画に沿い

 掘削がカジノ業者への便宜だったことは、カジノリゾートの施設計画に合わせて掘削し他の用途に使えない土地にしたことからも明らかです。

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(写真)2021年5月に府・市がカジノ業者に示した「土地造成計画」。盛り土を1年もたたずに掘削することや、工事後の地盤高を約束していました

 市は当初、カジノ用地を周辺道路と同じ高さにする方針で、19年9月から盛り土を始めました。2年間で100万立方メートルを計画。この盛り土はカジノ業者が希望したとする市の記録(10日付で報道)もあります。

 ところが、業者の施設計画が具体化するなかで建設時の残土発生が問題になり、市は盛り土を計画の半分以下、43万立方メートルで中断。さらに残土を減らすため、21年3月から万博経費で80万立方メートルを掘削しました。

 府・市とカジノ業者が基本協定(22年2月)すら結んでいない段階で、優遇工事を連発したのです。

 盛り土を途中で止めて掘削した結果、用地の大半は外周道路からおよそ3メートルも低くなりました。用地内の土砂は周辺と高さをそろえる当初計画より137万立方メートル減りました。

 この巨大な穴は、施設の地下に広大な空間をつくるなど特殊なカジノリゾート建設によって埋められ、最終的に周辺と同じ高さになるといいます。カジノ誘致が実現しない場合は穴の埋め戻しに20億円超が必要になったとみられます。

条件書で“密約”

 議会にも市民にも知らせず、秘密裏に行われたカジノ用地の掘削―。

 ところが、府・市はカジノ業者にだけは工事内容を知らせ、掘削後の地盤の高さまで約束していました。その“密約”は、カジノ誘致の条件書のなかにありました。

 カジノ業者と府・市は「対話」と称して17年から事実上の条件交渉を行ってきました。20年1月には府・市が最初の「事業条件書」をカジノ業者に提示し、これを業者側の意向に沿って何度も修正してきました。

 カジノ用地を引き渡すときの地盤の高さも、条件書の付属資料「土地造成計画」で府・市が約束していました。同計画書は20年1月の当初版、21年5月の修正版の二つが存在し、カジノ業者の施設計画に合わせて途中で地盤高が修正されました。

 ―当初版は、19年度に盛り土工事を行ったことを図示。

 ―修正版は、盛り土したばかりの地盤を20~21年度に掘削することを「↑盛り土」「掘削↓」などと図示。(写真)

 カジノ業者言いなりで府・市が条件を修正し優遇を重ねた背景には、19年12月からの公募でカジノ開設の希望業者が1者(MGM・オリックスコンソーシアム)だけになったことがあります。最後の1者に逃げられるとカジノ誘致が頓挫するため、選ぶ側と選ばれる側の立場が逆転していました。

違法流用の疑い

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 カジノ誘致や万博開催を調査してきた山田明・名古屋市立大学名誉教授は「万博経費、つまり税金を主とする府・市の一般会計をカジノ用地の掘削に使ってしまった。これほどひどい流用であれば、地方自治法や地方財政法に抵触する疑いがある」と指摘します。

 カジノ用地と万博用地は同じ夢洲内で隣接していますが、土地造成を行う予算の区分や主体が大きく異なります。市は次のように説明してきました。

 ―カジノ用地を造成する費用は、大阪港を整備・管理し施設利用料や土地賃貸・売却収入などで成り立つ市特別会計「港営事業会計」で負担。いずれカジノ業者が支払う土地賃料で費用を回収するという考え方。

 ―万博用地を急速に造成する費用は、主に税収で成り立つ府・市の一般会計で負担。万博開催に間に合わせるために増えた造成費用を万博経費として府・市が折半するという考え方。

 このため、万博経費を使ってカジノ用地を掘削すると府・市それぞれに流用問題が生じます。(1)市の一般会計を特別会計で行うべき事業に流用(2)府の一般会計を市が行うべき事業に流用―などです。

 山田さんは「このような流用が横行すれば、自治体の予算を議会や市民がチェックすることは不可能になる」と指摘します。

 「府・市は議会や市民に説明せず、カジノ優遇を進めてきた。その根底には、府・市議会で多数を占めた維新が市長など理事者(議会に出席する執行機関の説明者)と一体化し、議会のチェック機能が働かないことがある。そのゆがみを告発し、正していきたい」


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